この記事では、自分で公正証書を作った時の体験談をお話します。
「公正証書」とは、法律の専門家である公証人が公証人法・民法などの法律に従って作成する公文書です。 公文書ですから高い証明力があるうえ、債務者が金銭債務の支払を怠ると、裁判所の判決などを待たないで直ちに強制執行手続きに移ることができます。
引用 日本公証人連合会HPより
公正証書の作成を行政書士などの専門家に頼むか、公正証書を自分で作るかの決断の参考にして下さい。
自分でする公正証書作成の手順
- 養育費や金銭関係で約束してほしいことをリストアップ
- 現在と未来の子供にかかる費用を、どのように負担するのかを相手と交渉する。
- 約束の内容が分かるメモを持って、公証役場に行き、
公証人に法的な義務として成立するかどうかを確認する。 - 取り決めのメモを元に執行承諾文言を入れた公正証書の作成と、
公証人による交付送達を依頼。 - 公証役場に提出する資料(身分証明書)を確保しておく
- 後日、夫婦又は双方の弁護士が公証役場に行き、公正証書に間違いがないか確認して公正証書を受け取る。
- 公正証書を受け取る際に、公証人による交付送達をしてもらう。
公正証書の作成までの手続きの流れはこんな感じです。(↑を画像保存しておくと良いかも。)
私の経験を元に、順番に説明していきます。
自分でする公正証書作成の手順1 相手に約束してほしいことを中心にリストアップ
まず離婚が決定していることが前提ですが、相手に約束してほしいことをリストアップしていきます。
ポイントは、最初から遠慮しないこと。
兎に角、書きだすことが大事。要望を出し過ぎたとしても、あとで修正していけばいいので。
公正証書に残すこと1 養育費の金額&期間
養育費の取り決めといっても、月づきの金額だけでは不十分です。ほかにも決めることがあります。
一般的な養育費の取り決め
- 養育費の金額
- 養育費の払い方(どの口座に、いつまでに入金するか、振込費用の負担は誰?)
- 養育費の支払い期限(高校卒業までの18歳まで?大学卒業の22歳まで?)
- 養育費の支払いが滞った時の延滞金
上記のほかに
- 制服代なども養育費に含めた?
- 6年制大学へ進学の場合は、どうするのか?
- 学資保険の保険料の支払いや名義について
- 今のお稽古は存続できる養育費?
- 養育費に進学における引越し費用は含めた?
以上のことも考える必要があります。
子どもにどこまでお金をかけるのかは、人それぞれの価値観に左右されるはずです。
まずは、あなたが子供にどんな教育をさせたいのか、
子供が大きいのであれば子供の希望を書き出し、養育費取り決めの材料としましょう。
参考に国立大学の4年間の学費は300万円、私立大学なら500万円は必要です。
公正証書に残すこと2 面会交渉について
養育費以外で、子ども関連の取り決めとして、
面会交渉に関しても決めておくと後々ラクな場合もあります。
特に、父親が子どもとの面会を継続的に強く望んでいるや、祖父母も子どもと面会したい場合は、1か月あたりの面会回数や、祖父母との面会をどうするのかをきっちり決めると、離婚後に面会に関して悩むことがなくお勧めです。
ポイントは、「月1回程度」ではなく、「月○回」や「月☆回~★回まで」と具体的な回数をきっちり決めるのがお勧め。
わたしは決めなかったので、子どもと祖父母との面会に関しては、決めるべきだったと後悔してます・・・。
公正証書に残すこと3 年金分割について
また、年金分割も取り決めしておくべきです。
年金分割とは、合意分割制度 離婚等をした場合に、以下の条件に該当したとき、当事者の一方からの請求により、婚姻期間中の厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)を当事者間で分割することができる制度です。
専業主婦や年収130万円未満のパート主婦は、自分名義で年金は支払っていません。(いわゆる3号被保険者。)
そのため、婚姻期間によっては、離婚の時に年金分割の手続きをしないと、国民年金の記録のみで、夫の厚生年金の記録が自分に反映されません。
厚生年金の記録がないと将来受け取る年金の額も変わってきますから、必ず年金分割の手続きを忘れないでください。
分かりやすいサイトがあったので参考サイトを載せておきますが、年金分割は、関係する法律が二つあったり、結婚した年で適応されなかったりで、ややこしいんですよね。
ポイントは、年金分割に関して必ず社会保険事務所に問い合わせてください。
(参考サイト多治見ききょう法律事務所これから離婚をする夫婦の年金分割の手順と注意点)
ようするに、お金が絡むことは、全て公正証書にしておくってことです。
公正証書にしておいた方がいいことは、この他にもマイホームが共有になっているなど資産の問題や、住宅ローンなどの負債の問題も取り決める必要があります。
離婚の時に決めるべきことは何か、分からなかったら公証役場や家庭裁判所でも相談できます。(有利に離婚する方法などは弁護士に相談。)
自分でする公正証書作成の手順2 養育費の具体的な金額や期間を相手と交渉する。
これまでは、自分の希望をリストアップしましたが、今度は相手と交渉して実際の養育費の金額などを決めていきます。ここがメンドクサイ。
養育費の交渉には、相手の給料明細を手に入れておくとスムーズです。
相手の年収が分かるもの(どれか一つ)
- 源泉徴収票
- 課税証明書
上の書類は、結婚している間なら、役所に行けば出してくれます。
どうしても源泉徴収や課税証明書を手に入れることができないようなら、相手の給料の振込口座の中身をできるだけコピーするだけでも、養育費を決める参考資料になります。
相手が交渉に応じない場合は、家庭裁判所の調停を利用して交渉の席につかせたり、調停を経て裁判によって養育費を決めることになりますが、調停をした方がいいのかどうかは弁護士に相談してみてください。
また、公正証書作成の手数料を、相手方から先に預かると相手も真面目にやり取りしてくれます。
調停以外の方法で、養育費など公正証書に書く内容が出そろったら、相手方が後で取り決めにケチをつけたりされないように、メモでもいいのでお互いが合意しことをリストアップして、署名捺印をしてもらいます。
ポイントは、交渉する前に少なくても一度は、弁護士に相談してみること。弁護士なら経験上、相手がゴネるところを封じる方法を教えてくれます。
また弁護士に公正証書を作成する公証人のスキルも聞いておきましょう。
自分でする公正証書作成の手順3 取り決めが法的に問題がないか公証役場で聞く
日本では、原則、当事者が納得していれば、どんな約束でも自由にできます。
それは、離婚時の養育費やその他の約束に関して公正証書を作成する時も同じです。相手が良い!と言えば、慰謝料1億円だろうが、100億円だろうがいいんです。
しかし、法律に違反していること、倫理に反することは当事者がOkしていても約束として成立しません。
たとえば、「養育費が滞った場合の利息は、2000%」という約束は利息制限法又は出資法によって違法です。
他にも、将来子どもが養育費を払う元夫と同居することを条件に、養育費を払うなどと約束することもできません。
子供の権利である養育費の話を子供抜きでしているのに、子どもが成人したら養育費を払った側と同居する約束になってるなんて、困るでしょ。
つまり、常識的に考えて子ども権利を侵害しているものは、法律に照らすまでもなく、無効です。
それでも、法律的に有効な約束かどうか分からない場合もあります。
その場合は、養育費取り決めの話し合いの段階で、公証役場に聞くと無料で教えてくれます。(ただし事前に連絡すること)
公証人による無料相談の手応えをあまり感じないようなら、弁護士や行政書士に公正証書の下書き作成を依頼するのがおすすめです。
専門家による公正証書下書きの作成にも、費用はかかりますが、養育費の取っぱぐれの心配がなくなります。
自分でする公正証書作成の手順4 取り決めたメモを元に公正証書作成の依頼をする
取り決めが法的に問題がないのであれば、メモを基に公証人に公正証書作成の依頼をします。
ちなみに、私達が取り決めを、公正証書のひな形の形式で書く必要はないです。
たとえば、こんなひな型。
夫●●●●(昭和○○年○月○日生まれ、以下、「甲」)と妻●●●●(昭和○○年○月○日生まれ、以下、「乙」)は、甲乙間の離婚について、以下のとおり離婚給付等契約を締結する。
(離婚の合意)
第1条
甲と乙は、協議離婚することに合意し、本公正証書作成後、各自離婚届に署名押印して乙において速やかに届出をする。
このような文章を自分で用意する必要はありません。
公正証書そのものは、公証役場で公証人が作ってくれるからです。
実際、わたしも、上のような公正証書のひな形のような書類は、用意してません。メンドクサイし。
なので、公正証書の書き方をマスターする必要はなく、
双方が合意したことをメモしたものを持参すればOKです。
ただ、離婚協議関係に慣れていない公証人もいます。
何度も言いますが、一度はメモ書きを行政書士か弁護士に見てもらったり、下書きの作成をしてもらうこと。
メモ書きにお互いのサイン捺印はしておきましょう。
【自分でする公正証書作成の注意点】公正証書証書に「執行承諾文言」をつけること・「送達」を済ませること
執行承諾文言とは、金銭的な約束を守らない場合、直ちに強制執行(給料や財産を差し押さえること)を行うことを承諾する文章のことです。
たとえば、「甲は、本契約上の金銭債務〇〇を履行しないときは、直ちに強制執行に服する旨認諾した。」などの文章です。
この執行承諾文言が公正証書にないと、給料差し押さえなどの強制執行ができません。別途、手続きが必要になります。
給料の差押えをするためには,公正証書正本に,債務者が公正証書正本に記載された債務を履行しない場合は,直ちに強制執行に服する旨(これを「執行受諾文言」といいます。)が記載されていなければなりません。
引用 家庭裁判所 公正証書正本が手元にある方
そりゃーそうです。強制執行は国家が強制的に財産を使えなくさせる手続なので、簡単に強制執行できてしまったら、大変です。
なので、手続きが細かいのは仕方がないことです。
強制執行をすぐにするために、公正証書を作成する際には、執行承諾文言を入れるように公証人に頼んでください。
また、強制執行の手続きをする際に、「送達」という手続きが必要になります。
養育費が滞って相手に「送達」をすると、「強制執行されるんか!?」とあらかじめ分かってしまいます。
なので、「送達」は公正証書を作成と同時にしてもらうように公証役場に依頼しましょう。
参考サイト松土公証役場執行文付与・送達について
私の場合、公正証書作成時に送達をしてなかったので、強制執行が事前にバレないか、ヒヤヒヤでした。(事前に強制執行を告知した方がいいかどうかは、ケースバイケースです。)
自分でする公正証書の作成手順5 公正証書を受け取る際に、必要な書類を集める
相談や公正証書の受け取りのために、少なくとも2回は公証役場に行くと思いますが、公正証書を作成する段階になると身分証明書が必要です。(場合によっては相談の段階でも必要です。)
1 当事者本人により公正証書を作成する場合
(1)当事者が個人の場合
- 印鑑証明書と実印
- 運転免許証と認印
- マイナンバーカードと認印
- 住民基本台帳カード(写真付き)と認印
- パスポート、身体障害者手帳又は在留カードと認印
①~⑤のうちいずれかをお持ちください。なお、公正証書の種類によっては、特定の資料に限定される場合もあります。
後述する印鑑証明書、代表者の資格証明書及び法人の登記簿謄本については、公正証書作成日から遡って3か月以内のものをお持ちください。
引用 日本公証人連合会 公正証書作成に必要な資料について
公正証書の種類や法律改正などにより、必要な書類が変更になることもあります。必ず公証役場に聞いてください。私の時は、印鑑証明が必要でした。
役所に行く用事をなるべく減らすために、離婚届や戸籍謄本と同時に印鑑証明などをもらうと楽です。
公正証書の作成を自分でやるか弁護士に頼むかの分岐点は、自分の多忙さ
上の手順だけを見ると自分で公正証書を作ることは凄く大変そうですが、誰でもできると思います。
大変なのは
- 養育費などの取り決めのために夫(妻)と交渉すること
- 平日に時間を作って公証役場に行くこと。
- 取り決めの内容が、法的に有効かどうかの確認。
公正証書を発行する公証役場の開所日は平日、そして開所時間が17時までです。
私は2回ほど相談と公正証書の受け取りのために公証役場に行きましたが、
働いていて会社を休めないのであれば、弁護士に依頼するのがいいと思います。
相手との交渉は、かなり精神、消耗しますからね。
- 公正証書の書面作成から相手との交渉料金 200,000円~300,000円+実費(収入印紙代など)
公正証書の交渉から作成まで弁護士に丸投げだと20万円位が相場です。
相手と揉めていて話ができないのであれば、精神衛生上、弁護士に依頼する価値はあります。
でも、夫婦同士、話ができる状態で平日に休みが取れるのであれば、公証役場で行う公正証書の依頼などの事務手続きは、自力でできます。
専門家に依頼するのは、丸投げではなくスポット利用で、弁護士に離婚協議書や取り決めの下書きを見てもらったり、公正証書の作成だけを行政書士を利用する方がベストだと思います。
また、 厚生労働省委託事業 養育費相談支援センターでは、養育費についてのメール相談にも乗っています。
ぜひ活用してみてください。
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